流行唄ー柳沢きみお論(3)

流行唄

男の生き様

前回の記事で、柳沢きみおの「男の自画像」について、書いた。野球に夢を持つ中年男の挑戦の物語だった。選ばれし者になるために努力を続ける男。心の中に秘めた想いを実現させるべく、安楽な今を捨てる男。結構、感動ものだった。

今度は、音楽業界の世界に生きる男の物語だ。華やかな業界に君臨する男の人生に対する思いや死への恐怖や、色々なことが織り交ざる漫画になっている。少しだけ、あらすじを説明しておこう。

成功した男

主人公、郡司正直。大手レコード会社の副社長として、音楽業界に多大な影響力を持つ。今、彼は、将来の社長の座を睨みつつ、大きなプロジェクトの陣頭指揮を執っている。ソフトな風貌を持ちながらも、剛直・大胆に、仕事を進める。彼には音楽的才能を見分ける天才的なカンと知性があった。

地位、名誉、金、そして、女。郡司は、成功の証を全て手中に収めていた。怖いものなどなく、ただ、より大きな高みを目指していた。「更に上を狙う男のどこが悪い。現状に満足したら、それで男は終わりじゃないか」銀行頭取・政治家・著名文化人らとクラブやゴルフの接待。ファッションデザイナーの愛人がいて、秘書も抱く男、郡司。イケイケどんどんだった。

親友の死・吹雪く青森の一夜

そんな時、青森の寒村から1枚のハガキが届く。大学時代の親友・山地正一郎の死を告げる内容だった。強引に生きている今の郡司に、歌を愛した青春時代が蘇る。レコード大賞を欠席し、彼が死んだという青森の宿に向かう郡司。

そこにあったのは山地の郡司への手紙と山地が書き続けてきた唄のノートだ。

「せっかくこの世に生まれたからには生きた証がほしくはないか

 たとえば、俺とオマエの流行唄        

 俺達がこの世からオサラバしても俺達の唄は歌い継がれる

 俺とオマエの流行唄」(作:山地正一郎)

郡司の心の中の何かが弾けた。郡司の心の中がポッカリ空いた。

坂道を転げ落ちる

青森から帰って以来、郡司の寂寥感は募るばかりだ。癌で入院している父を見舞いに行き、その思いは更に高まった。老いと死。この逃れられない2つの運命をはっきりと認識した時、郡司にとって、成功が急速に色褪せてきた。

そして、社運を賭けたプロジェクトは失敗し、郡司は副社長から平取締役に降格されてしまう。新しいスター探しに郡司は奔走する。しかし、それも、ライバル会社やプロダクションの裏切りにあい、潰されてしまう。

流行唄

復活

郡司は、それでも諦めずに、新しいスターを発掘する。暴力団を使ってまで。「音楽業界に郡司あり」と言わしめるまでになる。再び、辣腕ぶりを発揮するのだが、その心は晴れない。

天才作曲家の夢方は死の床に伏している。

「死を控えた人間に、喜びも悲しみももう無いわ。それがどうした・・・だ」

気づき

郡司は気づく。出世や金に一喜一憂する人生のなんと虚しいことか。自分の残された時間を短さを実感する。今の日本は売れれば勝ちだけになった。その中身が本当かどうかを語ろうとしない。

郡司は全てを捨てて、古びたギターを持って、新たな人生を歩み出す。

死んでも永遠に残る唄を作るために。

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