何処に、どこに(短編3)

哲学

何処にも行かないことにしたので、何処にも行かなかった。

それまでは、何処へでもあっという間に動くことが出来たので、何処へでも行っていた。

冬の朝、寒さで目を覚ましたら、海の波が目に浮かんだら、中南米のビーチに瞬間でジャンプしていた。夏の手前の温かい日差しに目を細めて、結構な時間、青い海と波を眺めていたことだってある。

夏の夜、暑さで目覚めてしまったら、フィンランドにオーロラを見に行ったことだって、ある。ジャンプする前に、夏の暑さの中、防寒具を着るのは汗がたらたら流れ落ち、大変だったが。雪の中で、オーロラを見て1時間もすると、あまりの寒さに日本に帰りたくなり、すぐに戻った。

こんな能力が自分にあることを知ったのは、本当に幼い時だ。自分の部屋で起きた時に、ジャンプ出来た。虹色のトンネルをあっという間に突き抜ける感じだ。その時は日本の反対側に行きたいとかなり前から、思っていたのだ。その朝の週度は凄かった。なので、ブラジルにジャンプした。

そして、帰り方も同じなので、結構小さい時は大変だった。ジャンプ先から戻るためには、どこかで眠らなくてはならないから。言葉もわからないし、すぐに現地の大人に捕まえられそうになったりした。

なので、小さい時から15歳くらいまでは、夏休みとか冬休みとかだけに、ジャンプした。

最初は夢を見ているのではないかと思った。妄想の行き着く先なのかとも。でも、体が移動していることは事実だった。

そして、年を経るたびに、少しずつ、自分の瞬間移動について、理解するようになっていった。

判ったことは、眠りから覚めた時に、かなり集中して場所を念じれば、自分の思うところに行けることと、その時に自分が一人であることが絶対条件だった。

ジャンプして戻って来るまでに、どれほど長くジャンプ先に居ても、時間は基本的にジャンプした時と数時間程度しか経っていなかった。

戻ってくると、大変疲れて、かなりの間、僕は眠りにつかなくてはならなかった。1日以上、眠っていたこともある。気が付いた両親が慌てて、救急車に載せられて病院に行ったこともある。当然どこも異常はなかったが。

僕以外のこの特殊能力を持っている人を探そうとしたが、今も見つからない。

加えて、二十歳を過ぎて、大学を出て、社会人になってからは、ジャンプするたびに、体に痛みを持つようになってきた。髪の毛には白髪が増えてきたし、顔や体のシミがなんとなく増えていっている感じもあった。

それで、ジャンプすることを当分やめることにしたのだ。

そうなのだ。何処へでも行けるというのは、それほど、幸せではないのだ。誰も僕のこの能力を知らないし、何かに役立てることもできない。

それどころか、ジャンプするたびに、老化が進んでいる感じすらある。

それで、今、僕は何処へも行かない。何処へも行けるのに。

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