三好達治の詩と「ミステリと言う勿れ」

ミステリと言う勿れ

ミステリと言う勿れ

「ミステリと言う勿れ」というマンガ大賞に入賞した面白い漫画がある。そのコミックスの4巻にある「episode5:雨は俎上に降る」で三好達治の詩の話が出てくる。そうか、三好達治を出してくるか、君は。この作品を書いた漫画家の田村由美の叙情性にも、今回、感動。

それは、こんな詩の一部だ。

主人公久能整が雨の日に如月亭にポテトサラダを食べに行こうとしていたところ、雨に濡れながら「山賊の歌」を歌っている男に出会う。男が気になる整は男が「なんでこんな歌思い出したんだろ・・・」というので、会話をすることになる。整の得意とするところだ。以下、こんな感じ。

「雨のせいじゃないですか。僕も今朝“雨が瀟々と降っている”なんて、とある詩を口ずさんでいましたから」

「三好達治、大阿蘇」

「知ってます?」

「三好達治は大好きだ」

「僕もです」

「“雨が瀟々と降っている”“牛は草を食べている”」

「いえ、馬です」

「馬?牛じゃ」

「馬です。そもそもこの詩は“馬が立っている”から始まるんですよ」

そうなのだ。出会って直ぐに、三好達治の「大阿蘇」の詩の一部が出てくるのだ。そして、その後にも三好達治の詩は出てくる。

爆弾犯の男は整に聞く。

「三好達治の“乳母車”って、知ってる?」

「“母よー”ってやつですか」

「“母よー 淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり” 降っているのはなんだろうな」

この漫画のこれだけの部分でも、三好達治の存在感は大きい。

やはり、どう考えても、雨は瀟々と降っているに違いないな。

大阿蘇

大阿蘇の詩全文は以下の通りです。

雄大な自然とゆっくりとした時の経過を感じさせる詩ですね。やはり、雨は瀟々と降っているに違いないですね。そして、100年はたった一瞬なのかもしれない。

雨の中に 馬がたつてゐる

一頭二頭仔馬をまじへた馬の群れが 雨の中にたつてゐる

雨は蕭蕭(しょうしょう)と降つてゐる

馬は草を食べてゐる

尻尾も背中も鬣(たてがみ)も ぐつしよりと濡れそぼつて

彼らは草を食べてゐる

草を食べてゐる

あるものはまた草もたべずに きよとんとしてうなじを垂れてたつてゐる

雨は降つてゐる 蕭蕭と降つてゐる

山は煙をあげてゐる

中岳の頂きから うすら黄ろい 重つ苦しい噴煙が濛濛とあがつてゐる

空いちめんの雨雲と

やがてそれはけぢめもなしにつづいてゐる

馬は草をたべてゐる

艸千里浜(くさせんりはま)のとある丘の

雨に洗はれた青草を 彼らはいつしんにたべてゐる

たべてゐる

彼らはそこにみんな静かにたつてゐる

ぐつしよりと雨に濡れて いつまでもひとつところに 彼らは静かに集つてゐる

もしも百年が この一瞬の間にたつたとしても 何の不思議もないだらう

雨が降つてゐる 雨が降つてゐる

雨は蕭蕭と降つてゐる

乳母車

こっちも、全文を載せておきました。

うーん、これも、まことに叙情的だね。母に関する詩は多くあるが、哀しくも雄大な感じのある詩なのだ。参ったね、三好達治。

母よ――

淡くかなしきもののふるなり

紫陽花(あじさい)いろのもののふるなり

はてしなき並樹のかげを

そうそうと風のふくなり

時はたそがれ

母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ

泣きぬれる夕陽にむかって

轔轔(りんりん)と私の乳母車を押せ

赤い総(ふさ)のある天鵞絨(びろうど)の帽子を

つめたき額にかむらせよ

旅いそぐ鳥の列にも

季節は空を渡るなり

淡くかなしきもののふる

紫陽花いろのもののふる道

母よ 私は知っている

この道は遠く遠くはてしない道

甃のうへ

そして、おまけの三好達治の有名な詩はこれになるので、これも全文を載せておこうではないか。人気の三部作を集合させたぞ。

全くもって、三好達治よ、君の叙情はここまでいくか。乙女を出してくるしかないな。とても、良い風景であることは間違いないな。

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍みどりにうるほひ
廂々に
風鐸のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃〔いし〕のうへ

三好達治を思い出させてくれた久能整

「ミステリと言う勿れ」の久能整が、私に三好達治を何十年ぶりかで、呼び起こさせてくれた。そして、その詩を読んで、とても、清々しい気持ちにもなった。この不安定で不安な毎日の中で。ちょっとした光明だったね。漫画というものは、実に実に、このような効用をもたらしてくれるのだ。素晴らしい。

しかしながら、久能整は少々喋り過ぎではなかろうかね。そこが魅力なんだろうけどね。

――淡くかなしきもののふるなり/紫陽花いろのもののふるなり/はてしなき並樹のかげを/そうそうと風のふくなり――秋風が木の葉をまくように、青春の日の悲しい憧憬と、深い孤独感をたたえた処女詩集『測量船』に始まり、あらゆる題材を自由自在に歌いあげた『駱駝の瘤にまたがつて』まで。澄み切った知性で、漂泊の世の風景をとらえた詩業を集大成する。

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